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2023.12.04

お客様とともに作る、完全循環型の「終わらない服」。

お客様とともに作る、完全循環型の「終わらない服」。
働くひとのビジネスウエアを作ってきた青山商事が、これから向き合っていかなければならないのは、価値観の多様化とそれに伴ったビジネスウエアの自由化。そして世界規模での環境問題だ。この秋、業界に先んじて環境問題に向き合ってきた青山商事のあらたな取り組み『WEAR SHiFT』が始動した。持続可能な社会で求められる企業であり続けるための施策を考え、実行する現場を紹介する連載の第三回。創業60周年にあたって重要なSDGsの取り組みである『WEAR SHiFT』の中心人物である岩浅販促部長へのインタビューをお届けします。

1993年に新卒で入社、店舗での経験を重ねて店長・ブロック長を経て、現在は執行役員営業副本部長兼販促部長を務める岩浅寿典。『WEAR SHiFT』の中心となり牽引している岩浅販促部長は、プロジェクトのきっかけや経緯をもっとも詳しく知るひとりだ。

「会社のなかでの役割として、いろいろなことをやってみなさいとチャンスをいただけたなかで、10年以上前から携わってきたことがきっかけになり、この『WEAR SHiFT』という取り組みが形になりました」

さかのぼれば1998年、岩浅販促部長が店長を務めていたころに初めて『下取りセール』と銘打ってスーツの回収がはじまったという。ちょうどペットボトル等を再生資源として活用するための容器包装リサイクル法が一部施工された、言い換えれば社会でのエコ意識が高まり始めたときのことだった。

「とはいえ当時のわれわれには古着に価値があるとか、リサイクルという意識はまだあまりなかったように思います。あくまでも販売手段としての下取り。集めた服は古紙や古繊維の買い入れや何らかのリサイクル素材として活用していた会社に引き取ってもらい、お客様には“持ってきていただいた服が車の断熱材などとして再活用されます”という程度の説明をさせていただくレベルでした」

真のリサイクルへの転換

世の中のリサイクルやエコへの意識が高まっていくなか、『洋服の青山』での下取りセールは続いていく。転機が訪れたのは2012年。本社勤務となった岩浅販促部長に、「従来の下取りから青山商事らしいリサイクル活動を行う準備をしたい」との指示が与えられた。

そこで回収された衣類のリサイクルやリユースはどのように行われているのか知るために岩浅販促部長が訪ねたのが、大阪・泉南市のファイバーシーディーエム株式会社。中古衣料や古繊維の輸出入を営む企業だ。

「とんでもない量の古着が全国から集められていて、そのうちの95%以上が燃やされることなくリユースやリサイクルされると聞き、驚きましたね。日本だけでなく海外を含めて、必ずどこかで役立つため、服が第二の人生を歩むことができるシステムを作っていらっしゃった。いままで『洋服の青山』では古着を集めてはいたものの、それが実際にどのようになっているか詳しくは知らなかったですし、見えていないものを初めて見ることができました」

視察から戻った岩浅販促部長はさっそく上長に直談判したそう。「青山商事が今後リサイクルやリユース等、環境に関することも問われてくる時代に絶対なる。そのなかで、いまファイバーシーディーエムさんとしっかり協力してやっていくのが良いです」と訴えました。

今回の『WEAR SHiFT』でもタッグを組んでいるファイバーシーディーエムとのつながりはこのとき生まれた。青山商事では昨年度回収した衣類は約350トンにも及ぶが、そのうち98%以上の衣類は必ずなにかに活用されるシステムを構築している。この仕組みも2012年にファイバーシーディーエムの協力を得て作り上げた。

「われわれには衣類を集める力があり、ファイバーシーディーエムさんにはそれを選別し活用する力がありました。11年に及ぶ協力関係のなかで、集めたものの98%以上が必ずなにかに活用されるということはわれわれの自負するところです。かつ、この11年で衣類の活用法をしっかりと学ぶことができました。青山商事で取り組んでいる防災毛布を作ることができる企業さんとのつながりや繊維のリサイクルへの知識を得ることができました」

ついに始まる『WEAR SHiFT』

一時期販促の役割を離れていた岩浅販促部長だったが、2022年8月から再びその任につく。そして2024年に創業60周年を迎えるにあたって「次の10年でやるべきこと」を社内外の関係者と相談しながら考え抜いた。

これまで、販促の立場から「会社の向かう先を示す、または左右するような数々のプロジェクトに取り組ませていただきました」という岩浅販促部長。今後リサイクルについての法整備が進み、ことによれば義務化も予想されるなかで、11年に渡って知見を蓄えてきたリサイクルの領域でもうワンステップ上のことに取り組みたい。それが『WEAR SHiFT』だったという。

「まずわれわれは全国に700店舗以上という、衣類を回収する拠点を持っているという強みがある。スーツを中心としたウール製品を回収する能力では、おそらく日本で一番ではないでしょうか。そこでお客様に、“ご自身の服が生まれ変わったら面白くないですか”という会話とともに、新たな服を作り出すサイクルに参加していただくイメージを持っていただくんです。様々なリサイクル技術を持った企業においても、青山は集めて終わり、売って終わりではないところに賛同してもらえる企業を探す。それによってボランティアではなく、作る人の利益、売る人の利益、そしてお客様の価値観の満足度がイコールで成り立つ取り組みができる。これってめちゃくちゃ面白いよね、という考えから『WEAR SHiFT』のコンセプトから詳細までを作り上げていきました」

さらに、お客様の意識の変化や実際に店舗に持ち込まれたスーツへの思いにも気付かされることが多かったという。

「下取りを10年ほどやっていたとお話ししましたが、このときに現場では面白いことが起きていたんです。1着持ってきていただければ割引できるのに、3着も持ってくるお客様がいたんです。割引対象にならない2着はどうしますかと聞くと、“青山さんでしっかりリサイクルしてくださるんだったら、お役立てください”といって置いていかれるんです。こういう現象が年を重ねるごとにかなり出てくるようになったんです」

世の中のリサイクル意識への高まりを肌で感じ、そしてお客様が持ってこられるスーツにはそれぞれの思い出や愛着があるということを実体験として持っていた岩浅販促部長の「お客様からの期待に応えたい」という思いが、『WEAR SHiFT』には込められている。

ただし、この『WEAR SHiFT』にも課題はあると岩浅販促部長はいう。それは『WEAR SHiFT』がリユースではなくリサイクルを目指すところにあるそう。つまりリユースであれば古着を必要とする誰かに届けるだけで済むが、リサイクルの場合にはスーツからウールの原料を取り出し、そして改めて糸から生地へ、生地からスーツへと再生する必要があるからだ。

「スーツはウールだけでできているわけではないんですよね。ボタンがあり、接着された芯地があり、スラックスにはファスナーがついている。これが残ったままでは生地からウールの原料を取り出すことができないんです。現状では、それら不要な部分を手作業で切り出しているのですが、それは莫大なコストとなります。いまは技術を持った職人さんがいる工場でその作業を行っていますが、ここで処理できる量をもっと増やさなければ採算ベースに乗せることが難しい。現状の課題ですね」

「伝えることが下手ですね」と言われて

また企画段階から関わり、『WEAR SHiFT』の重要なコピーライティングを担当されたコピーライターの原晋さんから、青山商事のいままでのSDGs活動についての手厳しくも的確な指摘があったという。

「“青山商事さんはすごくいいことをたくさんされていますが、伝えることが下手ですね”という指摘をいただきました。確かに自負はあったんです。下取りはずっと前からやっていますし、ペットボトルからのリサイクル再生繊維も素材に採用し販売している。青山の環境に配慮した取り組みは年々拡大していましたし社内意識も高まり様々な施策を行ってはいたんです。でも、お客様にそれが伝わっていない、と。原さんにはっきり言っていただいて大変ありがたかったですし、じゃあどうやって知ってもらえるのだろうか、という具体的な問いへと進むことができました」

そこから生まれたアイデアが、全店舗に『WEAR SHiFT』専用の回収ボックスを設置すること。そして全ての従業員がこのボックスの意味をお客様に説明できるように準備を整えたこと。紙に書いてあるよ、ではなく、生の言葉でお客様に伝えるほうが「強い」と岩浅販促部長は断言する。

『WEAR SHiFT』でつくる店舗の新たな存在価値

現段階で『WEAR SHiFT』で作られる商品はリサイクルウールを100%使用したマフラーとコート。そのうち、コートの生地の5%が『WEAR SHiFT』で集めたスーツ等から再生されたウールだ。

「今はまだ5%ですが、まずここから始めよう、ということです。いずれ青山で集めて作られたウールの混紡率を10%にし、20%にし、最終的には100%青山で回収した再生ウールだけでコートを創りたい。何年かかるかはわかりません。ただ、小さいことでも何もしなかったらゼロですし、まずは青山で回収したウールを5%使わせてもらっているところからでいいんです」

将来の青山商事のために、いま必要な取り組みだとはじめた『WEAR SHiFT』。立ち上げにあたっては決して順風満帆というわけではなかった。

「販促というのは、社内にもプロモーションをしていく役割だと思っているんです。いま会社がこっちに動かないといけない、ということを声高らかに言う役目です。早すぎるとか、先が見えんとか、プレゼンしても打ちのめされたことなんていっぱいありますよ。でも、いざ気づいてもらえたり納得してもらえて動き出したときって、うちはものすごく強くて、早いんです」

『WEAR SHiFT』を拡大させていくことで、青山商事が衣類回収という部分での社会的なインフラになっていくと良い、と岩浅販促部長はいう。

「洋服の青山に持っていけば古いスーツも新しい服になるらしいよ、ということがもっと広まって欲しいですね。古い服を再生するインフラって実はなかなかないんですよ。でもうちは全国に店舗が約700店舗もあるから、たくさんの服を集めて再生することができる。『WEAR SHiFT』が広まっていけば、やがてもっと大きなことになるんじゃないか。そう思って取り組みを進めています

『WEAR SHiFT』のコートを購入すると、ポケットには手紙が入っている。岩浅販促部長のアイデアだ。どんな言葉がしたためられているかは、ぜひ店頭でご確認を。

服を変える服 WEAR SHiFT

終わらない服をつくろう。AOYAMAは、下取りして終わりじゃなく、誰かに委ねて終わりでもなく、自分たちの目で最後まで見届けるリサイクルを始めます。

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