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2024.03.18

「終わらない服」というコピーに込めた青山商事の覚悟

「終わらない服」というコピーに込めた青山商事の覚悟
青山商事が持続可能な社会で求められる企業であり続けるための施策を考え、実行する現場を紹介する連載の第7回。今回は、創業60周年の重要施策のひとつである『WEAR SHiFT』プロジェクトの名付け親であり、青山商事のさまざまな事業にコピーライターとして関わってきた原晋さんへのインタビュー。ただのリサイクル事業に留まらないようにとの願望を込めた『WEAR SHiFT』というコピーの狙いと可能性、そして未来への展望をお伺いしました。

『WEAR SHiFT』のプロジェクトの命名や「終わらない服をつくろう。」といったコピーライティグはどれも原晋さんによるもの。大手広告代理店でコピーライターとしての経験を積み、2008年からはフリーランスに。以降JR東日本やニューバランスなどとの大きな企画に携わり、現在は広告企画全般へと活躍のフィールドを広げている。

青山商事とのビジネス上の接点は2016年から。BEAMSライセンスビジネスのメインブランド〈BEAMS DESIGN〉プロデュースによる『MORLES』のネーミングとブランドメッセージの開発を依頼されたことがきっかけだ。コピーをただ考えるだけでなく、クライアントである企業がそのプロジェクトにかける想いや、モノがお店に並ぶ現場までを想像しながらクリエイティブワークを行える人材として、まさに原さんは適任だった。

「青山商事さんの最初の印象は、路面店で全国に展開しているスーツ屋さん。なので、まずは“洋服の青山”のお店に足を運んで、現場を理解しようとしました。あと、ライバル店も同様にリサーチしました。僕は常々、“コピーは足で書く”ものだと思っています。情報収集、インプットがすべてなんです。ですから、青山商事さんとの最初の仕事も、そして今回の『WEAR SHiFT』でもまず工場を見せてくださいという話からスタートしています」

コピーは決して“降りてくる”ものではなく、可能な限り多くの情報を仕入れ、そのなかから本当に伝えるべきことを見出す仕事だと原さんはいう。

原さんが見た「終わらない服」への挑戦

ただの下取りではない『WEAR SHiFT』は、回収した服を糸にして生地にする、そして再び服へと蘇らせ、その服を購入したお客さまのもとで役目を終えた服をまた回収して再生する、循環型のプロジェクトだ。

このプロジェクトで重要な役割を果たすのが、衣類の回収、分別、そして再び糸へと形を戻していく技術をもった協力会社だが、その現場にも原さんは当然のごとく足を運んでいる。はじめて見学に行った日のことを、原さんは今でもはっきり覚えている。

「当たり前ではあるんですが、衣類を回収したら、その先に分別という作業が待っています。なるほど、使えるものと使えないものをちゃんと分けて、次の用途のためにきちんと分類することで初めて、すべてをリサイクルできるようになるんだということを知りました。使い終わった衣料品をあらゆる形で再生・再利用を可能にする、本気でリサイクルを考える事業者と青山商事が組むことで、事業者任せにしない真のリサイクルに取り組み始めようとしているんだと。紡績の現場ではリサイクルウールというものができるということを知るところから、編んでいるところを見させていただいたり、糸が再生されるのにどのような課題があるのかも詳細に教えていただきました」

「ちょっと工場を見学に」と言われて現場に足を運んだものの、見学で活動の全体像を知らされた後のスタッフ間での食事会の頃にはすっかり「いやいや、そんな軽い話じゃなくてすごく大きな話だし、なにより、めちゃくちゃいいことやってるじゃないですか!」と前のめりな気持ちが抑えられなくなっていたという。

撮影の最中、壁にはプロジェクターで『WEAR SHiFT』のコンセプト動画が

スローガン「終わらない服をつくろう。」

やがて青山商事のプロジェクトにかける想いや、規模感から「服(ウェア)というものの考え方をシフト(転換)する」との意味を込めて、「ウェアシフト」というネーミングを提案する。同時に活動のスローガンである「終わらない服をつくろう。」という言葉も生まれた。

「スローガンというものは、企業やブランド、商品が目指す先を規定するものです。つまり“終わらない服を作ろう”と言うのであれば、終わらない服を作るまで活動をやめちゃいけないということになります。60周年の企画もので終わらせられない、大変なことです。スーツを世界一販売している会社がそれらを回収し、再生まで責任をもち、すべての商品をリサイクル、リユースしていくという取り組みですから。それでも岩浅販促部長をはじめプロジェクトに関わる方からは、この言葉に相当するだけの覚悟を感じました。本当にその本気度でやるんだったら“終わらない服をつくろう”くらいのことは言ったほうがいいし、この言葉が一番ふさわしいのではないでしょうかという提案をさせていただきました」

プロジェクトの名前が決まり、そしてスローガンが決まるということは、活動の大枠が決まるということ。そして、終わらない服のためにもっとも重要なことは、お客さまがこの循環のなかで大きな役割を果たすことだ。

「もう商品を購入されたお客さまは気づいていただいていると思いますが、2023−2024年秋冬に発表された『WEAR SHiFT』のコートのポケットには誰に宛てたというわけでもない、まるで独白のような手紙が入っています。お客さまに手紙を渡す、というアイデアは素晴らしいですよね。このアイデアは岩浅販促部長ですが、“それは僕が考えたかったです!”とお伝えしました(笑)。この循環の本質はお客さまが参加してくださってはじめて成立する企画。ですから手紙を通して『WEAR SHiFT』への我々の想いをなるだけ正確に伝えたかったんです。そして数年後に、この服が役割を終えたときにはもう一度店頭にお持ちください、と伝えることはとても意味のあることだと思うんです」

この“手紙”。よく見るとインクが飛んだ跡や折れ曲がった跡がある。印刷で再現したものだが、温もりやこだわりがそんなところにも見え隠れする

原動力は青山商事の「本気」にある

環境問題への意識が高まり続ける昨今、企画の発案者である岩浅販促部長はリサイクルについて他社の取り組みが進んでいないことに疑問を抱き、自社で力を入れて取り組もうと考えた。それがこのプロジェクトのはじまりだった。

「それっておかしいな、と思ってもなかなか動ける人って少ないですよね。でも岩浅さんはそこに本気で取り組もうとした。この“本気”というところが、この活動の素晴らしいところです。そして僕の仕事は、その取り組みをサポートすることです。事実として伝え、取り組んでいることがきちんと見えるようにすることです」

今後『WEAR SHiFT』をさらに推し進めていくために、原さんが青山商事に期待していることは「青山商事の枠を飛び出すことが一番大事だと思います」だという。

未来への展望、青山商事の枠を超えた循環型社会への貢献

「旅する服、という映像を作ったり、『AOYAMACTION』というメディアを作ったり。社内や店頭だけでなく、青山商事がやっていることを“外”に知らせることが活動を前進させる鍵になると思います。全店にリサイクリングボックスが置いてありますが、このボックスだって鉄道の駅に置いたり、道の駅のようなところに置いたらもっと回収の量が増え、活動のことを知る人だって増えますよね。『WEAR SHiFT』の意味を考えたら、ゴールは洋服の青山のお店に人を呼ぶことじゃないと思うんですよ」

モノ消費からコト消費、という消費行動と動機の傾向から見ても、ストーリー性が高く社会問題の解決を目指す『WEAR SHiFT』は多くの人の共感を得やすいはずだと原さんはいう。『WEAR SHiFT』という活動を世の中に広め、そんな活動をしている洋服の青山を選びたいというファンを増やしていく。『WEAR SHiFT』がそうやって続いていくことを、名付け親の原さんは強く願っている。

PROFILEプロフィール

原 晋(はら すすむ)

シカク コピーライター/クリエイティブディレクター原 晋(はら すすむ)

東急エージェンシーを退社後、さまざまな職域の担い手が集まり、同じ屋号で活動するクリエイティブユニット・シカクを結成し、企業ブランディングや広告領域を中心に活動。企業の課題解決の形を広告に限定しないため、CMやコピーのみならず、店舗設計からテレビ番組の構成、イベントまで、企画と名の付くあらゆる考え方を提案する。

構成:前田陽一郎 文:青山鼓 写真:藤井由依

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